有希 ワンマンライブ No.1☆Star 2008.06.01

正直なところを書こう、最初わたしは帰りたくて仕方がなかった。
ゆうちゃんを見た直後その興奮をすぐさま手紙にしたため、それをAKBシアターのインフォメーションのお兄さんに渡して(実は公演を見る前にも同じお兄さんに以前書いてあった手紙を渡した)、その恥ずかしさに死にそうになりながら、でも醒めない興奮をさげたまま、さっさと家に帰ってしまいたかった。だがアイドルはしごは私にとって必要不可欠なものであり、最近の秋葉原の取締強化の呷りを受けて有希さんが満足いく路上活動を行えない今、やはりライヴでその歌を聞くことは非常に重要であろう、そう考えて私は重い足取りのまま会場に向かった。
前を歩く人が、ひと気のない角を曲がる。私の後ろを歩いていた人も私と同じようにその角を曲がる。顔をあげると前方に、確認するまでもない、ヲタの集団がいた。秋葉原clubGOODMANで開催される有希さんのワンマンライブを見るために集まった人々。なんだいなんだい群れなしやがって、と思うも私だって立派なヲタ。たまに見受けられる女ヲタは知り合いの男ヲタに囲まれて談笑しており、女一人参加する私は異常に浮いていた。その浮きっぷりはすさまじく、みんなこっち見てきやがっていた気がした。一向にはじまらない入場に業を煮やし、まじ帰ろうかなと呟くこと数回、やっと入場がはじまった。ワンドリンク代を別に500円だし、やっぱり女とソロヲタ(完全にひとりで来て、回りにだれも知り合いがいないヲタのことらしい)を兼ねてしまった今日の私は浮きまくっており、これはもうさっさと酒を飲むしかない、ということで、ウォッカトニックを頼みそのままがぶ飲み、5分と経たずにもう一杯頼んだ。次はなにを頼もうかな、と思ったところで会場が暗転し、有希コールが始まった。そうして幕があがる。ライヴがいま始まった。


ギター、ベース、そしてドラム。ドラムはこないだも素晴らしい演奏を聞かせてくれたLitle nonから来てくれた赤毛一角獣。生バンドを従えて歌う有希さんは路上で歌うその姿とは比べ物にならないくらいオーラがあり、冗談もお世辞もデフォルメもなしに本当に魅了された。
「おーい!おーい!おい!おい!おい!おい!」
「うぉーお、おい!うぉーお、おい!」
ヲタ特有の動きと掛け声が響く。不思議なことに彼らはPPPHやそういった類の掛け声が出来るフレーズ以外では非常におとなしく、跳ぶことも体を揺らすこともなく、したとしてたまにクラップするくらい。こんなにロック(土屋アンナが使うそれと同じような意味だと思ってもらいたい)なのに、どうしてそんな不自然なことになるのか。私はドリンクを頼むカウンターの横でひとりでズンズンとたまらないウーハーに身を任せてリズムを体で感じていたのだが、「Free Bird」や「It's my blood」などの最高に盛り上がるナンバーでガンガンテンションがあがり、それでも前のヲタが相変わらず緩いこと(そのときの私はそう思いました)をやっていやがるしで、まじ我慢の限界に達した。そのときなんか途中でトイレにいくという激ゆる(そのときの私はそう思いました)ヲタが人の間を縫って移動していたので私は彼の後に続き、前にでることに成功したのだった。
前に出た私は人差し指と親指をL字型に構え、右腕を天井に向かって突き上げながら、有希さんたちが奏でる音楽にあわせて無茶苦茶に跳びまくった。緩すぎるモッシュ(まじで激ユルだったのでモッシュと呼べるかもあやしい)に突撃し、相変わらずヲタノリしかできない周りのやつらに、これが本当のノリなんだよ!これが本当に有希さんが求めてるものなんだよ!(そのときの私が勝手に思ったことです)、だってこれがロックだろ!(そのときの私はそう思いました)と、ダメなおまえたちに教えてやるとばかりに、私はひとりで異常に浮いた激烈テンションでジャンプと腕振りを繰り返したのだが周りはやっぱり相変わらずだった。だが次第にもうそんな周りのことも全然気にならなくなって、ハァハァという自分の息遣いと有希さんの伸びやかな歌声と体の内側に響くバンドの音しか聞こえなくなり、目に見えるものは有希さんの恍惚の表情と光に満ちたステージだけになった。激しい曲がはじまった瞬間、うわーきちゃったよ、と思いながらも次の瞬間に私は跳ぶ。やめてくれよーなんて口先ばかりのポーズで私の全身全霊はそれを求めている。曲の盛り上がりが少し収まったあたりで、リズムを軽くとりながら小休止をはさみ、きっつー、と乾く唇を舐め、あぁもうムリだなとか思ってんのに、ドラムがギターがベースが何かを追いかける。私を追い詰める。やべぇ跳ぶしかない!!最高だ!こんな気持ちは初めてだ!!楽しくてしょうがない!!!自分の限界が見えない!まじどうなっちゃってんの!そんなイっちまった私に有希さんが爆レスをする。でも恥ずかしくても俯いてらんない!超最高だよってちゃんと伝わったかな、伝わってるよね。だってまじ楽しい!!!そんな超圧縮された時間をすごしてライヴは終わりを迎えた。終わった瞬間、私は大量の汗を掻きながらも、ひとつの達成感を感じていた。きっとエロ火さんがこのとき(http://d.hatena.ne.jp/erohi69/20080504)言っていたのはこのことだったのかもしれない、私は足元に及ばないかもしれないけれど、きっとこういったことなのだろう、とぼんやり思いながら汗がひくまで壁にもたれて過ごしていた。すると物販に有希さんが出てくるとのこと。正直買うものはないかなと思ったけれど、どうしても彼女に伝えたくて、あんなノリしたけど、本当に初めてだったということ、有希さんが素晴らしかったからしてしまったんだということ、それを伝えたかった。ヲタがやっぱり行列をなし、私は静かにその行列に並んだ。伝えたいことよりも先ほどのライヴの興奮がまだ体に残ってグルグルと回っていた。今日ならきちんと目を見て話せると思った。が、いよいよ私の番に近づいてきたとき、有希さんは目の前にいるヲタが自分を見ていないときや財布を取り出そうとしているときなんかのちょっとした合間合間にも私を見てきて、それはさすがに恥ずかしくって、目をそらしてしまった。いよいよ私の番になる。もう最初から手を広げて待っていてくれた有希さん。ひさしぶり、来てくれたんだね、超嬉しい、と言われながら握手。私は、「今までで一番楽しかったです」と言った。その「今まで」が私が25年生きてきてそんな多くはないけれど行ってきたライヴのどれよりも、という意味だったのだが、きちんと伝わっているか不安だったので、もう一度言った。「他のどんなライヴよりも最高でした」。有希さんの隣にいた物販を手伝ってくれてるお姉さんが、「すごいね」って有希さんに言っていて、それでもやっぱり私はこの気持ちが伝わってないんじゃないかと不安になった。本当に最高だった。こんな気持ち初めてだった。でも今はまだうまく伝えられないのかもしれない。私は次のライヴのチケットを買い求めて(残念ながらワンマンではないんだけれど)、物販列を立ち去った。出口へと続く階段に、今日のバックメンバーが他のお客さんや知り合いの人と話している姿があった。私はライヴの途中、跳びだした頃から決めていた、この人たちにも絶対お礼を言うんだと。階段に腰掛けてるギターをやってくれていた人に握手を求めた。素晴らしいプレイでした。あまりライヴ経験のない私の言葉は薄っぺらいのかもしれない、でもそう言わずにはいられなかった。ありがとうございました、と両手で握手を交わして、そのままドラムの人にも握手を求めた。この人のドラムは本当に素晴らしい。それは前回みたときから思っていたので、このとき握手できたのは本当に感無量だ。ありがとうございます、と二回言って手を離した。ギターの人の隣にスタッフと思しき女性が座っていたので、その方にも握手をもとめた。ついでに、と失礼なことを言ってしまったにも関わらず快く応じてくださって嬉しかった。ついでに、とか失礼なことを言ってしまってすいません、ありがとうございました。手を離した私はそのまま階段を上る。「なんか卒業式みたいだ」と奇特なヲタである私の背中に彼らの言葉が届いた。階段をのぼりきって出た外は夜に包まれていた。私の体は満足感に支配され、ただ今ここにある自分の中にある先ほどの自分しか思い出せず、ゆらゆらと帰途についた。本当に素晴らしいライヴで素晴らしい体験だった。有希さんに巡り合ったことの幸せをいま思う。本当にどうもありがとうございました。あの物販でも言ったけれど、これからもずっと応援していきたいと思います。応援させていただきます。