いくつかサルベージできたので

諦めていた、はてなグループでの日記がいくつかサルベージできました。
そうできなかった記事ももちろんありますが。
亀井さんにティンコがつく話とクリスマスのお話は特にお気に入りだったので悲しいです。
嘆いたって仕方がありません。もしもログをお持ちの方がいらしたらご一報ください。
お礼にいまだ家に眠るHKT48 1stシングル『スキ!スキ!スキップ!』の劇場盤を進呈します。
嘘です。なにか考えます。


長いので読む場合はリンクからどうぞ。

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■ 10年後の亀井さんへ
■ ミセスDDのヴァイオリン
■ 兼ヲタ、イラネ~日曜日は上野ハロショで~
■ 兼ヲタ、イラネ~女囚~
■ あなたがいる、もう半分の未来

 

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■ 10年後の亀井さんへ  2008-02-27

10年後の亀井さんと読む日記を書き始めて一年がたちました。

だから今年は9年後になるんだろうけど、そうしなかったのは、少しだけ亀井さんに距離を感じているからなのかもしれないよ。違うんだ、別に推し変とかそういうことじゃない。推し変ってなぁにって、ううん、ごめん、なんでもない。ただ言えるのは、亀井さん以外の人を最期まで守り通そうって思えるようにはならないってことだよ。

夕べ「モーニング娘。 コンサートツアー 2007 秋 ~ボン キュッ!ボン キュッ!BOMB~」を見たよ。亀井さんが輝いてたね。すごく推されてたね。美貴ちゃんのパート歌い継いでたね。かっこいい顔できるようになったんだね。でもどうしようもなかったね。「セーイッ!」が果てしなくアホっぽくて大好きだよ。

どうしようもないとかポケポケプーとか言われたい放題でも、その人が自分を構ってくれるならって喉を鳴らして喜ぶ、大きな愛と寂しい心を持ち合わせてる亀井さんに相変わらず胸がきゅんきゅんするよ。亀井さん愛してる。亀井さんのことすごく好きだよ。9年後に亀井さんと私はひとつの形をふたりで作ってると思うんだけど、でももしかしたら10年後かもしれない。ひょっとすると20年後かも。そんな風にふたりの距離は永遠に縮まらないのかもしれないなんてちょっとだけ気弱なことを思ったの。それはやっぱり夕べ見た亀井さんがキレイで大人で、なんだか置いてけぼりにされたみたいだったから。20年後の亀井さんは間違いなく美しいし、ディスコにも海にも連れてくしファミリーフレッシュを使うと手を繋ぎたくなる現象にも見舞われてみたいし、つまりどこまでも一緒に歩いていきたいよ。4月になったら小さな目標をふたりで立てよう。毎月でも毎週でもいいよ。小さな目標をふたりで立てて、それからお互いに手紙を書こう。真っ白い便箋に私はいつも決まって書くよ。愛してるって。

 


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■ ミセスDDのヴァイオリン  2008-03-03

どこかでヴァイオリンが震えている。

春の気配を含んだ日差しが降り注ぐ昼下がりの公園に彼女はいた。

パニエでゆったりと膨らませたスカートには立体的なフリルがこれでもかとあしらわれその存在を主張している。斬新だけれど、でもクラシカルさは失わないその上品なフォルム。ロッキンホースブーツがカチリと鳴る。石畳の上を優雅に歩く彼女のその姿に人々は息を呑み視線を奪われた。

ひゅうっと風が立ち止まった人々の間を縫い、時がようやく動き始める。彼女の周りに人が集まる。彼女に憧れ慕う取り巻きたちだ。ドタドタと下品に走り寄るのは下っ端の娘たち。その娘たちの息が整わないうちにやってくるのが取り巻き3年目あたりの中堅どころ。下っ端の娘たちの息が整い、ドレス姿の彼女-ミセスDD-に御目文字させてやってから優雅に登場するのが一番年季の入った、位の高い取り巻きたちだ。

彼女たちは興奮気味にミセスDDに話しかける。


「ミセスDD!今日も素敵です!」

「ふふ、ありがとう」


「ミセスDD、今日はどの方を推されるんですか」

「うん?うーん、まだ、秘密よ」


「ミセスDD、最近は武藤さんにご執心だってお聞きしましたけれど」

「ふふ、そうね、あなたにも今にきっとわかるわ、武藤さんの魅力がね」

 

ミセスDDはその名のごとく、DD(誰でも大好きの意)であった。

そうしてミセスDDはその魅力とカリスマ性で女ヲタ界隈を組織する、最強かつ最恐との呼び声高い女ヲタだったのだ。彼女に言葉をかけてもらいたい一心で取り巻きたちは熱心にミセスDDに声をかけた。


「ミセスDD、今夜は抱いてくれないの」

「レ、レイカさまハァーン!」

「さすがはミセスDD、出典を瞬時に理解して萌えるだなんて!」

「このヲタ反射神経こそがミセスDDのミセスDDたる所以!」

「それにしてもあの昇天しきった顔……素敵だわ!!!」


人々はみなミセスDDを称えた。

DDという、共感を多方面に振りまくことへの反感、という、諸刃の剣を掲げながらこのような絶大な信望を得るにいたったのは、ミセスDDの絶対に否定しない、というポリシーが功を奏していたことは明らかだった。それもこれもミセスDDの巧妙な計算の上になされていたのだが、それを計算と見破れるものはおらず、よって彼女の地位は当分は安泰であると思われた。

ミセスDDが片手をひょいとかざすと、後方で静かに控えていたショートカットヘアの女性が、さっとその手にチケットを乗せた。C列。

ミセスDDがおやと眉を上げる。


「ミセスDD、すいません、A列は用意できませんでした」

「まったくしょうのない子ね」


そろりと髪を撫でられたショートカットヘアの女性が瞳を上げる。


「ミセスDD……」

「C列、ね。そうね、コンサ終わりで飲んでヲタカラしてで0時すぎには家にいると思うわ」


「でも、私はまだ。その、先輩たちもいるし、」

「あなたが気に入ったの。大丈夫よ誰にも文句は言わせないわ」


ミセスDDは妖艶な微笑を回りに投げかけた。

取り巻きたちはそうされればもう何もいえない。それを知っていてミセスDDは楽しんでいるのだった。ミセスDDはいまだまごついているショートカットヘアの女性の指を強く引いて、自分との距離を詰めた。唇が触れ合う、と反射的に瞳を閉じたショートカットヘアの女性であったが、思い描いた柔らかな感触は訪れなかった。目を開いた先にはミセスDD。


「ね、あなたが気に入ったの。きてくれるでしょう?」

「……はい、ミセスDD」


「そうと決まれば、まずはコンサを楽しんでくるわね……うぉおおおおやったろうぜ!やったろうぜ!ウリャヲイ!ウリャヲイ!このリズムでまのえりヒィヒィ言わせてぇ!!!!」


C列はセックスのフラグ。

ミセスDDは高ぶったテンションのままに声高らかに叫びながら会場へと向かう。

取り巻きたちがミセスDDの通る道の両脇に立ち見送る。さながら十戒のその中をミセスDDはTシャツに着替えながら歩いていった。計10色があしらわれたTシャツはミセスDDがDDであるゆえの最高の計らいであり、まのえり卒業へのはなむけでもあった。彼女のそのTシャツと前面に大きく書かれた、「まのえりはこれからもずっと音楽ガッタスの一員」という言葉にまのえりはきっと号泣するだろう。ミセスDDは涎を滴らせながら、そうして、会場に消えた。

 


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■ 日曜日は上野ハロショで  2009-06-22

魚臭いエレベーターを抜けるとそこにはたくさんの可愛い神様たちの写真がそこかしこに張り出してある。その桃源郷に群がる男女はみな虚ろな顔をして、自分が崇める神様の写真の番号を紙に書きなぐり、ときには神様に懺悔を告白するようにぶつぶつと愛を呟く。ずっと変わらない光景がそこにはずっとあって、私はその光景の懐かしさと、老いていくヲタ戦士たちの白髪交じりの頭をじっと見守った。

とある写真を見つけた。すっかり女性になった熊井神の写真だった。

「あ、これ野呂さんに似てますよ」

「えーそうですか? うーん、そうかなあ……」

「似てますって、ホラ、"会いたかった"くらいのころの」

会いたかった、と呟いた瞬間、店中のヲタが私たちを取り囲んだ。私はしまった!と思うがそれはもう後の祭りだった。抵抗するまもなく取り押さえられる、私とヲタモダチ。虚ろな目をしていた彼らの瞳は憎しみに満ち満ちており、少し抵抗をする私の肩を力任せに抑えつけた。忘れていた。AKBヲタは見つけ次第処刑。それがこの神を崇めるものたちの中の絶対の戒律だった。私は恐ろしさで震え上がる。このままでは処刑されてしまう。今にも殴りかからんばかりの彼らの間を縫って出てきたのは初老の男性だった。どうもこの店でお布施を取り扱っている人らしい。彼はいきり立つヲタ戦士たちに目配せして私たちを解放すると、静かに告げた。

「君たちにいくつか聴かなければならないことがある。正直に答えたほうが君たちのためだ。そして、君たちには今、ある疑いが掛けられている。なにかわかるかね」

「……いえ」

震える唇をなんとか落ち着かせようとする。足も手もガクガクだ。

「ふむ。君たちには今AKBヲタの疑いが掛けられている。AKBヲタがどうなるかは……」

視線を巡らせる初老の男性に答えるかのように、ヲタ戦士たちが口々に叫ぶ。

「AKBヲタは処刑!AKBヲタは処刑!」

取り囲んだヲタ戦士たちが雄たけびを上げる。それに初老の男性は満足げに笑った。

「ということだ。だが私は信じているよ。君たちはAKBヲタじゃないとね。……ふむ。ではいくつか質問をしよう」

じっとりと手が汗を掻く。私の手のひらを握りこむヲタ戦士にも絶対にバレているだろう。焦れば焦るほどに脂汗が噴出した。だがここは何とか凌がなければ。私はまだ処刑されるわけにはいかない。

「君たちはAKBヲタかね?」

「いいえ」

「君たちの推しメンを教えてくれ」

「私の推しメンは亀井さんです。でもDDですが」

周囲がざわっとする。その空気を代弁するように初老の男が声を出した。

「DDなのに推しメンがいる……推しメンがいるのにDDと……。まあそれは今回のことには関係ないからよいだろう。そこの彼の推しメンは」

「ボクは……DDです」

「ふむ。DDは兼ヲタになりやすいと聞くが……」

兼ヲタ、と口にしたときの初老の男性の口にするのも汚らわしいというような顔とその発言にまた周囲がざわついた。私の腕を押さえつけるヲタ戦士の腕に力が加わったのがわかった。


「ふむ。ではこのまま君たちにやってもらいたいことがある」

パチンと指を鳴らすと後ろに控えていたヲタ戦士がA4サイズの封筒から写真を取り出して床に置いた。写真は秋元康だった。これが。私は思う。これが噂の踏み絵か。ここでヘマをしたら私たちは処刑されてしまう。うまくやるしかない。たとえAKBを足蹴にすることになっても。

「まあ、見ればわかると思うが。この写真を踏んでもらえるかね」

「はい」

私たち二人は素直に応じる。悪いが秋元Pには何の思い入れもない。私が愛でているのは可愛いAKBのメンバーたちなのだ。

思いのほかあっさりと秋元Pの写真を踏んだ私たちに初老の男性は驚かなかったようだ。予想通り、そういってるような顔がやたら憎たらしい。そして踏み絵はこれで終わらない。ヲタ戦士が封筒から写真を取り出して床に置く。今度は、野呂佳代さんの写真だった。くっ。野呂さんならもしかしたら許してくれるかもしれない。私は一瞬の間にそう思う。すべてを受け入れてくれる野呂さんならばきっと。私はここで捕まるわけにはいかない。もっともっとアイドルを見たい。もっともっとアイドルを応援していたい。そしてアイドルたちにとっても私の応援は必要なものなのだ。横をちらりと見るとヲタモダチも大体同じようなことを考えているようだった。真一文字に結ばれた唇と少しだけ顰められた眉。きっと私も同じような顔をしてるに違いない。

「では、どうぞ」

背中を押されるように掛けられた声。かかとに重力が集中しているようで中々足が上がらない。だが。しかし。踏むしかないのだ!

「やっぱり君たちはAKBヲタなのかな」

ニヤニヤと初老の男性が私たち二人を見遣る。周囲のヲタ戦士たちは声には出さないものの、周囲に立ち込めた熱が彼らの怒りや憎しみをあらわしていた。

「ふ、踏めますよ」

噛みながらも足をあげる。そして、野呂さんのご尊顔目掛けて足を……下ろせなかった。

床にひれ伏す私に、ふはは、と初老の男性は笑い、連れて行け!と私たちの腕を掴んでいたヲタ戦士に向かってアゴをしゃくった。集っていたヲタ戦士たちが二つに分かれて、その間を私とヲタモダチは進んでいく。通り過ぎるヲタ戦士たちはみな今にも私たちに殴りかかりそうだった。歯をかみ締め、握った拳が震えているものもいる。処刑!と誰かが叫んだ。それを皮切りに、処刑!処刑!とヲタ戦士たちは大声をはりあげ、はやし立てた。終業のベルが鳴り、目隠しされ連れ去られる私たち。私たちの命はもはや、カウントダウン。3・2・1。ハッピーハッピーバースデイ、思い出すのは私の愛する彼女たちの歌声だった。何だか涙が出てきた。本当を話せないし。奇しくも私の誕生日の次の日のことだった。

 


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■ 女囚 2009-06-24

どこまで続いているのか先が闇に閉ざされて分からないほどに長い廊下を私と男は歩いていた。廊下には私たち二人の靴音とジャラリと音を立てる手錠の音が響く。15個目のドアに差し掛かったとき、男がおもむろに立ち止まった。ガチャリ。ギギーッ。重たい扉が開かれ、鉄格子の窓から射す光が少しだけ眩しい。その中に浮かぶ一つの影。どうやら先客がいたようだ。男は黙って私の手錠を外すと乱暴に部屋の中へと私を突き飛ばした。それから踵を返し部屋の外に出た。ギーッ、ガーン。鉄製の分厚い扉の閉まる音が私を絶望の淵に叩き落す。もうここから出る術はないのだと、本能で理解させる音だった。

「アンタ、推しメンは?」

突然声がした。先客のものだ。シルエットで分かってたつもりだったが、女ヲタだった。

「……仲谷」

私たちがこれまで生きてきた世界では、互いの名よりも大事なことがある。それが推しメンの名。ハロショで捕まった私はもう誰に憚ることなく愛しい人の名前を告げた。仲谷、と呼べることの幸せを感じる。絶望の淵にあってもこんなにも幸せにしてくれる、まさにこの世の天使。私は仲谷を思ってそっと目を閉じる。ふうん、と一つ唸った女は続けざまに、ハロヲタ流れってわけね、と呟いた。

「そっちは?」

「あたし? あたしは……うーん、雅、かな」

「じゃ、そっちはAKB流れってこと?」

AKB流れなんて存在しているのかと半信半疑で尋ねると、一つ鼻を鳴らしてから、

「私はmix厨なんだよ。打てるなら、何処でも行く」

ふいと視線を窓の外にやった。

つられて私も視線をやると、鉄格子に分断された空は高く、とても青かった。

 


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■ あなたがいる、もう半分の未来 2011-03-27

陽を透かした白いレースのカーテンが床に美しい模様を彩る。少しだけ開けた窓から吹き込んでくる風は春の陽気をまとって気持ちよい。ソファに凭れながら、このまま微睡んでしまおうか、と考えていたとき、車が止まったのが見えた。エンジン音が止み、ドアが閉まる音がする。もうしばらくで賑やかになるだろう玄関を思うと、途端に眠気がどこかに行ってしまった。

ガチャリと扉が開く音がしたかと思うと、楽しそうにはしゃぐおチビちゃんたちの声と、靴ちゃんと揃えて脱いでーとお小言ママの声が聞こえてきた。苦笑いしながらパタパタと廊下を歩く。今日は少し大きなスーパーまで行くといっていたから、荷物は多いだろう。もしかしたら車にもまだ積んであるかもしれない。

私の顔を見るなり、おチビちゃんたちが、ただいまーと破顔する。おかえり、と返しながら脱ぎ散らかしていた靴を揃えてやる。それを見た亀井さんが、もう、と頬を膨らませる。そうやって甘やかしちゃダメなんですよーだ、と怒るから、私はゴメンと謝る。パタパタと廊下を走るおチビちゃんたちに、手洗いとうがいをするように言いつけると、はーい、と返ってきた。今日も変わらずに元気で、まことによろしい。同じ事を思ったのか、亀井さんも笑っていて、優しい顔をしていた。すっかり母親の顔になった彼女にまた今日も私は惚れ直す。

玄関に置かれた荷物は大きな袋で2つだけだったので、これだけかと訊くと、今日は本当にこれだけらしい。季節限定味や新作の味が出たりするとアホみたいに買い込む人だから不思議に思ったけれど、前にアホみたいに買った商品があまりおいしくなくて食べきるのに苦労したことを覚えていたようで、それで今回は買う量を減らしたのだとか。亀井さんも人間として日々成長中のようで。そう呟いたら結構な力で腕をはたかれたので、それは失敗だった。私も成長しなければ。

買い物袋を抱えてダイニングに行くと、ソファで飛び跳ねていたおチビちゃんたちが飛んできて、早速腰にまとわり付いてくる。はは、人気者はつらい、よし、これ冷蔵庫に入れたら遊んでやるぞーなんて思ってたのに、今日買った新作ジュースが気になってるらしく、それをくれとせがんで来る。ズッコケてると亀井さんがコップを取り出して、ジュースを半分だけ注ぎ、それをおチビちゃんに渡す。これだけー?これだけ。えー。えーじゃない。いつもの会話。ママは強いのでこういうとき我侭が通らないことを知っているおチビちゃんたちは、不満そうにコップに口をつけ、でも一口飲むと笑顔になって、おいしいを連発した。これはヒットみたいだ。あとで商品名を覚えておこう。

お休みなんだから、という亀井さんの気遣い(でも本当は私が一緒だとおチビちゃんたちに強請られるままに買っちゃうからだと思う)から買い物には同行しなかったのだけれど、お昼ご飯くらいはと台所に立つ。それにもまた、折角お休みなんだから休んでていいのに、と亀井さん。主婦には休みなんかないのだから、私が休みのときは、亀井さんにも主婦をちょっとお休みして欲しいんだよ、と言うと、でへへへーとだらしなく笑う。しあわせすぎて今すぐにでも抱きしめたい気持ちにかられるけれども、我慢我慢。

お昼はパスタにした。たらこがなかったのでトマトパスタになってしまったのだけれど、亀井さんもおチビちゃんたちも美味しいと全部平らげてくれた。昔もよく作ってくれたね、なんて亀井さんが言ったもんだから、どこで覚えてきたのか、ヒューヒューなんて囃されて恥ずかしかったけれど。

食休みの後はおチビちゃんたちと公園で遊ぶ。今日は天気がいいし風もそんなに強くないから遊ぶには絶好の日和だ。私としては早くキャッチボールを教えたいのだけれど、亀井さんがまだ危ないといってきかない。こういうとこは過保護なんだよね、本当。砂場でトンネルを作ったり、滑り台をしたり、ブランコをしたり。亀井さんに似たおチビちゃんたちは本当に可愛くて、亀井さんのしつけも行き届いていて、どこに出しても恥ずかしくない。私の自慢だった。お昼寝の時間が近付いてきたので、まだ遊びたいとせがむおチビちゃんたちの手を引いて家に帰る。

出迎えにこないので、もしかして、とは思ったけれど、亀井さんは一足先に夢の中だった。しーっと指を口にあてる仕草で音を立てないように、亀井さんの横に転がるおチビちゃんたちが愛らしくて、亀井さんごと抱きしめようとしたら、おチビちゃん2号に、しーって怒られた。うん、ごめんなさい。

気が付けば私も寝ていたようで、きゃっきゃっとはしゃぐ声で起こされた。起こしてきてー、と亀井さんの声がして、トタトタとおチビちゃんたちが近付いて来る音がする。目を瞑ってたぬき寝入り。結構荒っぽい起こし方をいつもされる仕返しをしてやろう。ぬふふ。いきなりどすんとお腹の上に座られて、ぐえっと声が漏れそうになる。よく耐えたと我ながら思う。そのまま鼻をこちょこちょされたので、ぐわっと目を見開いて、くすぐりあいっこスタート。2対1で人数は不利だけれど、そこは子供と大人の差。散々くすぐってやっていたら、亀井さんがなーにやってんのーってガキさんみたいな言い方でやってきて、おやつ食べちゃうよーと呆れたように笑った。

おチビちゃんたちは、わーっとダッシュを決めて、私がテーブルにつくころにはもう手洗いを済ませてお行儀よく座っていた。私も手を洗って、みんなで一緒にいただきますをする。おいしいを連発する3人を見ながら、幸せを噛み締めた。本当に、幸せだと思った。あんまりにも美味しいというので、私の分もあげようとしたら、亀井さんがそれを見咎める。あー、こわい。でも本当いい母親だと思う。おチビちゃんたちの将来が楽しみだ。

おやつを食べたら晩御飯までお絵かきでもしようかな。それともパズルで遊ぼうかな。お風呂は今日は亀井さんは一緒に入ってくれるかな。おチビちゃんたちはいつまで一緒にお風呂に入ってくれるのだろう。川の字で寝られるのもいつまでだろう。

いつまでだって、おやすみを言いたい。おはようを言いたい。いただきますを言いたいし、ごちそうさまも。美味しいねの笑顔に会いたい。

いつまで。いつまでも。

これから。これからもずっと。きっと。

 

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亀井絵里さん、ご卒業おめでとうございます。

輝いた未来の中で、あなたの笑顔が身近な人たちをたくさん幸せにしますように。

どうか、しあわせで。