りなてぃん!が始まるよ

Rinatin! すべてを忘れて! Rinatin! 体 動かしちゃえ!
Rinatin! さあ 楽しみましょう! Rinatin! 夜はこれからだよ!


Overtureが流れ、シアター内のテンションが高まる。
私たちの居たポジションは上級者向けだといわれているとかいないとか判らないが、確実にヒダリホサレメン推しの人々が多く、つまり、それだけ必死応援をしているのだった。前に居たヲタがそれをまさに地で行く人で、大きな身振り手振り、MC中の横槍コールなど、実にやりたい放題。ハロで慣れた身からすれば大したことないのだが、それでもやはり気になってしまうものは仕方がなく、この人本当どうにかならないかなと思いながら歌い踊るキラキラしたアイドルを目で追っていた。だがそういうオーバーアクションなヲタが近くにいるといいこともある。メンバーがチラチラこちらを見てくるのだ。何度だっていうがこれは脳内ではなく、本当に見てくる。それが確認できるほどに近い距離であるからこそAKBシアターは魅力的で何度だって行きたくなってしまうのだが、それはまぁいいとして、話を戻す。メンバーたちは自分の名前を呼ぶ常連ヲタに向く。それからその横に混じるあまり見ない女ふたり組みに目を留めて、見てくる。珍しいものを人は見るわけでこれは本当に当たり前の意識の働きだと思う。大きく腕を振りかざし、大きな声で研究生の名前をコールする常連ヲタ。研究生はとてもフレッシュでそういうときは素直にそのヲタの方に向き直るのだが、そのままその隣で渋い顔をしている私たちに視線を流し、大変申し訳なさそうな顔をするのだった。研究生推せるわ、と思った瞬間だった。
だがしかし、私がTAKADAに見せたかったものはこれから始まる。そう、りなてぃんだ。
りなてぃんは超見てきますよ。りなてぃんは優しいんです。りなてぃんはめーたんクラスで見てきますよ。などど散々言い含めていたのだが、TAKADAはイマイチ実感できていないようだった。めーたんを超える衝撃も、ゆうちゃんのような、見てますよ!というアピールもされないのだろうとタカをくくっていたのだろうと思う。だが、それは甘い。そしてそれを一番実感したのはTAKADA自身であったろうと私は断言する。

公演前半のりなてぃんは圧倒的に下手にいることが多い。全体を通しても下手に存在してる時間が長いと思うので私は下手を選んでいるのだが、一度でもりなてぃんからの視線をもらってしまったら誰であってももう下手以外を選ぶことができなくなってしまうんじゃないだろうかと半ば本気で思ってしまうくらいに、りなてぃんの笑顔や仕草、そして歌って踊っているだけの筈なのに滲み出てくるその優しさに打ちのめされた。私たちの横にいたヲタの中にアンチりなてぃんがいたようなのだが、その話をTAKADAから聞いたとき、本当の優しさに気付ける大人になれなかったんだね、と私はそのヲタに哀れみを抱いた。
りなてぃん、私のこと覚えてんじゃないのか、と思う節が何度かあって、それこそがAKB48の土台を支える「ヲタの自意識過剰からくる勘違い」なのかと思わなくもないのだが、でも、それすら楽しめてしまうのだから本当にAKBは楽しい。初めて来るひとだと思われていても、おまいつだったとしても、りなてぃんはきっと全ての人に平等に微笑むだろう。嗚呼りなてぃん、その優しさに、もっと触れたい。りなてぃんが視界に入っているとき、私はほぼ、りなてぃんしか見ていない。そんな私にりなてぃんは気付いていて、たまにふっと視線をくれるのだが、私はそのたびに俯き、ニヤニヤする自分の気持ちの悪い顔と噴出す汗の対処に追われた。これはTAKADAも言っていたが、こちらが楽しそうに手拍子していたり、小さく口ずさんでいたりすると、「そうそう、その調子よ」「うんうん、ありがとうね」みたいな聖母の微笑みをりなてぃんは投げかけてくる。私はそれをモロに食らい、ずっと堪えよう堪えようと我慢していたのに、俯き、それだけでは収まらず、とうとう眼鏡を外してしまったのだった。しばらく正面で踊り続けるりなてぃんをまともに見ることができず、だが俯いたままでは失礼であろうから、眼鏡を外してぼんやりした視界のまま見続けることにした。それでも心臓はずっとバクバクいっており、私はりなてぃんが私の中で如何に大きな存在になっているのか、ということに気が付いたのだった。公演を見れば見るほどその近さやレスポンスに慣れるものだとは思うのだが、それはあくまで他の人の場合であって、私は見れば見るほどりなてぃんに耐えられなくなっていくようだった。あまりにも私は気持ちが悪い挙動をしていたので、次を誓う。次こそは絶対に俯かないでりなてぃんの微笑をうけるのだ、と。
りなてぃんの爆撃はTAKADAにも降りかかっていて、私たちはりなてぃんから微笑みの爆弾を受けるたびに肘で突付き合い、あまりの出来事に笑いを抑えることができなくなった。人間、本当にすげぇことになったら笑うしかなくなるもんだと思った。左サイドにともちんが来た時は、あまりの近さに近ぇ!と爆笑したし、ひぃちゃんとゆかりんの緩いやりとりを目の前で見せられてやっぱり爆笑したし、LOVE CHASEでサイドにりなてぃんが来たときも俯く自分に爆笑するしかなかったし、もう本当ダメだ、自分が気持ち悪すぎる。俯いてしまう弊害は他にもあって、私はりなてぃんの視線に耐え切れず俯いてしまい、TAKADAの肩に撃沈していたとき、りなてぃんがTAKADAの目を見て(つまり私も顔を上げていればりなてぃんと目が合っていた)、手を振りながら下手に捌けるというピンポイント爆レスをしていったらしかったのだ。私はそれを聞き、羨ましさ半分、そして、それを受けていたら自分は一体どうなってしまっていたのか、といことを考えて受けなくて良かったという安堵半分の複雑な気持ちになった。だが、やっぱり、決意した。次こそは、絶対に俯かないと。
公演が始まって5分と経たず、TAKADAはりなてぃんの凄さ、素晴らしさ、恐ろしさを理解したようだった。それから私たちはりなてぃんが正面にいる度に、張り裂けそうに高鳴る心臓を持て余すようになり、りなてぃんが私たちの視界から消えてしまうと、逆にホッとするレベルでりなてぃんに、TAKADA曰く弄ばれていた。私がAKBを好きな理由のひとつである、ポジション変更の激しい振り付けに伴って、またりなてぃんが私たちの目の前に現れそうになったときは、私たちは耳元で「りなてぃんが来てしまった」と囁き合い、これからどんな風に弄ばれるのかと恐ろしさ半分、そしてそれ以上の恍惚にその身を任せていたのだった。りなてぃんTIMEがはじまるよ!りなてぃん!夜はこれからだよ!その優しさで、弄んで。