初日によせて

初日。そう聞くと思い出す場面がある。まるで黎明の青い光の中で胸にたぎる言葉を思い思いに口にする。外の世界に出たその言葉は光を連れてくる。眩いばかりの夜明け。眩いばかりの希望の光。「初日」は誰にとっても大切なものだ。また新しい「初日」を迎えようと思うならそれ相応のチャンスと努力が必要だろうと思う。今回AKB48歌劇団という新しい舞台にあがることになった。初日の幕が開くまで、その幕の裏にあるものは誰にも窺い知れない。逆に言うなら幕が開いてから、その姿を見せることでしか何かを感じてもらうことはできない。初めてのことはとても大変だろう。言ってしまうのは簡単だけれど、想像することは難しい。広井さんのブログでは稽古場では多くの汗や涙が流れたそうだ。それを私は感じたい。幕が開き、光の中で輝く彼女たちの姿を見ることで。ということで、かたっくるしいことを書いたような気がしないでもないですけど、AKB48歌劇団「infinity」を観に行ってまいりました。今日はその感想というかレポというか呟きを。以下、壮絶なネタバレを含みます。


幕が開いたらいきなりの「会いたかった」。これにはド肝を抜かれた。いや、まって、あの、どうしたら?だってさ、普段のシアターとは違うんだぞ、mixとかコールとかダメなんだからって気構えてた人ってたくさんいたと思うの。そんな中、素直にテンションあがりまくって、むちゃくちゃなコールとケチャをかましまくってた斜め前のじゃがいも頭とトサカ頭の中学生コンビが可愛いっちゃ可愛かったけど、でも、ちょっと大人しくしなさいよ、と思った。冒頭の「会いたかった」もそうだけれど最後の「最終ベルが鳴る」もそこらへんをどうしたらいいのかイマイチ図りかねてる人が多いようで、宙ぶらりんな感じだった。劇であるわけだから、MIXはまずい。でもAKBであることを前提にしていて、それを劇中に取り入れているような場面もある。これはどうすれば。作中に明確には説明はなかったが多分「会いたかった」はダンス大会で3位だった去年の大会の様子なのかなと思った。最後はもちろん紆余曲折を経て出場したダンス大会での「最終ベルが鳴る」。物語の一部であるわけだから、私はMIXはやっぱりまずいと判断するけど、手拍子はありだと思う。さっきも出したけれど外部の役者さんがお客さんを意識したやり取りをする場面がある。そのときに「みんなAKB大好きかー?」とコチラに問いかける。「・・・シーン」となることを想定していたその役者さんたちだったけれど、「大好きー!」と元気に返した人がいて、素直にびっくりしていた。その後で「こういう感じで答えが返ってくるといいな」みたいな感じで、拍手を求めるジェスチャーをしていた。だからやっぱり彼らの世界では拍手や手拍子くらいが考えうる観客からのレスポンスなんだろうと思った。まあここらへんは色々揉めているとかなんとか聞きますけど、TPOを考えて、自分がそれでいいと胸を張っていえることをして欲しいと思います。そのときに「金を払っているんだから」という胸の張り方は私はしたくないと思うのだけれど。
最初の「会いたかった」が掴みの導入部。場面は一転して、暗闇にひとつベッドが浮かぶ。ヒロインであるマリアの夢の中にルカが現れる。そこでメインテーマを歌いだす。ヒロインを演じるゆきりんのソツのなさがすごい。初心者なのに、あ、歌ってるって普通に思わせるってすごいと思う。ゆきりんに関してはハラハラするという場面がほとんどなくて、危なっかしさもほぼなくて、すっと物語に引き入れてくれる感じだった。ルカと初めて街で出会って操られてしまうときは、自分の意志じゃなく喋らされてる、という感じを演出するために物凄い矢継ぎ早に話すのだけれど、もうちょっと聞き取りやすかったほうがいいかなと思ったけど、これもそんなマイナスってほどでもない。ゆきりんの演技ですごく印象に残っているのは、同じくルカと初めて会った街角でのシーンなんだけど、あなたのことを好きじゃないって言いながらも、興奮を抑えるために肩で息をしているシーン。台詞まわしよりも仕草や体の動きが上手なことが多くて、指先まで神経の行き届いたゆきりんのダンスを思わせた。ルカがバーンと登場するシーンは浮かび上がるシルエットが細すぎた印象がある。これがオカロだったらものすごい登場シーンになるのだろうとちょっと思ったりしたけど、佐江のルカだからこそ良いこともある。佐江のルカは全体的に若いし幼い。不老不死で何百年も生きているドラキュラの割には感情が豊かだし、そこが人間臭さを生んで、ルカの台詞である「お前たち人間とどこが違う」に通じる。私はまだオカロのルカを見ていないのでなんともだけれど、まあ下手糞でベタな例えをするなら、「インタビューウイズバンパイア」という映画でのトムがオカロでブラピが佐江って感じ。線の細いゆきりんと佐江が抱き合うと世の中から隔絶されて人の目を憚って二人だけの愛をそっと育んでいる儚さみたいなものがあって、色っぽくて素敵だとおもった。佐江は少し声が細いのでそこが少し気掛かりだったけれど、ゆきりんも声がとても女の人の澄んだ声なので、ハーモニーもそこまで崩れてないと思った。声量を必要とするロングトーンもたくさんこなしていて、大したものだと何を偉そうになことを思ったりした。
ストーリーをまた少し追ってみるけど、メインテーマの後は学校のシーンになる。流れ出した曲は「友よ」。今回はミュージカルなのでどの曲をどの場面で使うのだろう、という楽しみもあった。チャイムが鳴ったその後も帰りたくなくてダンス部は次の大会に向けて練習をする。ここで大抜擢のわさみん、クリスがお目見え。あとはメイド役だと聞いていた仲谷とたなみんもさらっといたのでびっくりした。めちゃくちゃ嬉しかったですけどね。そして、私がもっとも注目していたのは、事前のモバメで自分の役名である「伊佐子」を連発していたスマイル番長だったんだけど、私の期待を裏切らなくて本当によかった。「バックステップから、1、2」とかスカした声で言ってて、「これか!研究生とか初対面の人が怖いという米ちゃんは!」と爆笑してしまった。伊佐子はとても厳しい人で、だけれど押し付けがましくない優しさを持った人で何度も部員やマリアを助ける存在だった。好奇心旺盛なクリス演じる恵理もいい味を出していた。役柄もクリスそのもので、見ていて微笑ましかった。クリスの演技は堂々たるもので、少し生歌に弱いことを露呈していたけれど、大きな声で歌い通していてそこにすごく感動した。恥をかくことを恐れては成長はないし、苦手なことでも一生懸命やっている姿が私は大好きなのだ。もともとAKB歌劇団はホンモノを見せるために作られたのではないと私は思っている。たしかにお金は取られるし、メンバーだって本気で取り組んでいる。それを軽視してるわけでも失笑してるわけでもない。新しいものに悪戦苦闘しながらも成長していく彼女たちの姿を私は見たいし、そういう彼女たちを見て欲しいという思いが制作側にもどこかにあったんじゃないかと思う。ダイヤモンドの喩えをつらつら書いたんだけどベタすぎて寒いので省略するけど、とにかく「始まり」や「初めて」に立ち会えたその喜びは私は何にも変えがたいとそう思っている。
あんまりネタバレしたくもないし、ていうかむちゃくちゃ長くなったのでもうストーリーを追わずに印象的だったことなんかを書こうと思う。
この舞台で一番意外性を発揮していたというか、観客が驚いたのは、わさみんじゃないかと思う。堂々たるモノだった。ありゃしょうがない、推されるわ、それが感想だ。声の出かたがメンバー内ではメインキャストに次いでいたし、舞台度胸も大したもので、後半であまり見せ場がなかったのは少しもったいないと思ったくらいだった。最初の設定でマリアをすごく慕っているという話だったけれど、あまりそのように感じられる場面がなくてそこは少し残念だったかな。それに限らずなのだけれど、演出も脚本も結構残念に思うことが多かった。それは追々書いていこうと思う。演技力という意味で抜けてたのは歌子を演じたNなっちかなと思った。細かい演技がとにかくうまい。小さな声で悪態を吐くとか、次の瞬間には全開笑顔とか、普段のNなっちのキャラというか芸風(?)がすごく生かされた役柄だったと思う。彼女はみんなにデートと偽って実はダンス部のためにバイトしている、という涙ぐましい設定を持つ役だったのだけれど、それをあまりうまく拾ってもらえてなくて、ちょっと可哀想だった。ダンス部のためだった、と聞いて、それでも伊佐子が厳しく叱って、そして最後には許してあげるって展開のほうが、伊佐子のキャラの軸も見えてよかった気がする。Nなっちは歌がうまいのでこれもそんなにハラハラすることないだろうなとむしろ逆に楽しみにさえしてたんだけど、やっぱり初日の緊張は容赦なく酸素を奪うようで、声量がとても小さくてもったいなかった。ふしだらな夏は抑え目の声でポソポソ歌うほうが色っぽいと思うので、それはバランスよかったと思う。ていうかあれは本当にうまかった。ふしだらな夏といえば、はーちゃんがものすごくよかった。はーちゃんは台詞自体はとても少ないんだけど、その代わりに一緒に踊ったりするシーンがとても多い。その曲に一番入り込んでいたのは間違いなくはーちゃんだった。大人っぽい曲は本当に素晴らしくて、君はペガサスのときの切ない表情は、別れていく悲しみを表現していて素晴らしかった。初日は台詞を少し間違えていて、言いなおしてしまったのでそれがバレるという散々な結果だったんだけど、最近はアドリブなんかも入れだしていると聞くから、もっとやってほしいと思う。ただでさえ台詞が少ないのだから、待ってないで、入れられるところはガンガン食い込んでいけばいいと思う。クリスについては少し書いたけど、なんか本当に頼もしかった。今回は歌劇団だったわけだから歌のことを言われるのは仕方ないのだけれど、台詞劇で彼女を見てみたいと本当に思う。はーちゃん以外に下級生という括りに入れられている、ちぃちゃん、もなか、うっちー。ちぃちゃんがあまり目だってなかったような気がしてもうちょっと見せ場があればいいなと思った。109でのもなかさんのスーツ姿には誰しも釘付けになるわけで、うっちーは元来の目力の強さがある。私が観劇した場所はドセンターだったので目の前に来ることが少なかったこともあげられるかもしれないが、本当もったいなかった。次はちょっとちぃちゃんに注目してみようと思う。絶対にいいものを見せてくれているはずだから。
そしてメイド二人。仲谷は全体的な評価が高いと小耳に挟んだけれど、あたりまえだろうが!!!!と推しバカな意見を置いておくと、少しこじんまりとしていたかなと思った。別にdisるつもりはないの!まじで仲谷超よかったの!以前にテイルズのアフレコでメイド役をやったことがあるのだけれど、そのことを思い出したりしたのかなと思いながら見ていた。お辞儀が緩やかであるところも素敵だと思ったし、「メイドっぽさ」で言うと仲谷の右に出るものはいないだろうなと思った。恋愛禁止条例では激しいダンスをしながらも、ちゃんと歌えていたと思う。逆にたなみんは緊張しまくっててかわいそうになった。たなみんの魅力はダイナミックさで、それを封じられている感じがしないでもない。感情をあまり表に出さないメイドということで、歌声はわざと控えめだったのかそれとも緊張で声がでなかったのか、あれが限界なのかはわからなかったけれど、もう少し声は出ていても良いと思った。たなみんは今回の生歌にかなり苦戦してるメンバーの一人だと思うので、まじで超成長のチャンス。あと幕間のコントも大チャンス。ぐっすみんを知らない子供たちに教えてやるんだ、実はたなみんが超絶面白いってことをね!このメイドは双子の役だ。これは実は写真手渡しのときに仲谷に言おうと思ってたんだけど、見事に隣からクリスに話しかけられて流されたというヘタレ経歴をもつんだけども、もっと仕草の部分で双子っぽくして欲しいなと思った。例えばおじぎの角度。歩幅。左右対称で同じことをする、とか。カツラを被って同じ服を着ているので双子だということはわかりやすいが、それよりもそういう双子だと感じられるような動作を入れられればより説得力があると思った。それこそ喋り方は全然違うのに、ふとした仕草が一緒とか。恋愛禁止条例の途中で向かい合って手と手を合わせるフリなんかは双子っぽいと言えばそうなんだけど、その前に何かがないからたぶんそう見えてる人っていないんじゃないかと思った。次に行くのは6日なので伝えられたら良いけど、どうなんだろうなあ。素人の意見で恐縮なんですけども。とかいって全然恐縮せずに言うけど、他にもどうなんだろうという設定というか脚本や演出があった。もっと良くなったような気がするという意味で。歌子のことも言ったけど、バックボーンがあまりに薄い感じがする。広井さんの頭の中にはあるのかもしれないけど、本当にわかりにくい。あとは歌が唐突過ぎること。いや、リオの革命いらないだろあれ。これだけは本当に断言してあげたいわ。もしも使うならもっとスローテンポにして編曲も変えてやればそれっぽくなったと思う。あれは本当は寂しい歌だからあったと思うの。でもなまじっかカーニバルな感じだから、マリアが「あたし、ルカを探してる!」って喜ぶという変な展開がある。その展開はアリなんかいな。250年ずっと探してくれた人を今度は自分が探す立場になるっていう部分に喜びを見出すのはすごく自然だと思うの。でもなんでリオなのかっていう。最初は喜びながら、だんだん不安になってくる、という過程をマリアは表現できてなかった。ていうかワンハーフしかないから無理だろと。その次に流れる「マリア」も不自然。これは最初にゆきりんと出会って別れたすぐ後にやるべきだと思う。それかルカだけのシーンを冒頭あたりに作ってそこでやるとか。250年呼びたくても呼べなかったその名前とその人を思う歌なのでとてもあっていると思うんだけど、ゆきりんと結ばれる前にやったほうが、ルカがどれだけ切実にマリアを求めているのかが判りやすかったと思う。急にキスしてしまったルカの思いもわかりやすかった気がするなあ。対して、君ペガの演出はとてもよかったと思う。数多の女性たちがルカのもとに集いそしてどうしようもない別れを繰り返してしまった。マリアではない彼女たちにひと時の慰めを求めてマリアという幻想を重ねてしまったのか、それとも250年よりずっと以前にルカに寄り添って永遠の命を授けられなかったマリア自身だったのかはわからないけれど。歌詞の内容だと前者、ストーリー的には後者だと思うけど。そのときのはーちゃんよかったんだよなあ。さっきも書いたけど。バックボーンというとメイドの扱いも気になった。彼女たちはずっとルカに仕えているのだけれど、永遠の命を授かってるわけではなさそう。なんでかっていうと、2度噛まれないと永遠の命を授けられないと知らなかったから。私は仲谷が噛まれたのか噛まれてないのかが非常に気になるのだけれど、噛まれていないとすると、ルカの魔力によってコウモリとか何らかの動物が人間の姿に変えられてる感じかな。ルカが灰になったら彼女たちも元の姿に戻ったとか。そういう演出も欲しかったけど、如何せん1時間40分くらいのミュージカルには詰め込めなかったんだろうなと諦めます。んで最も気になったのはヴァンパイアハンターのみなさん。中西さんという方にはプロとはこうだ!というものを見せ付けてもらったので本当に満足している。メンバーもあれが見れたのは本当に素晴らしいことだよ!ということは置いておくとして、ヴァンパイアハンターの位置づけがイマイチわからない。愛をマリアに説くルカを付けねらうハンター達。この舞台のテーマは愛だろうと思う。ルカの象徴はそれなのだから、ハンターはその反対の欲望の象徴であるべきだったんじゃないかなと思う。ハンターがルカを付けねらう意味がイマイチわからないんだよなと。例えばルカを殺してその生き血を啜れば不老不死になれる、とか。ていうかそもそも私はヴァンパイアハンターの方も何百年も前からルカを狙っていると思っていたんだけど違うっぽいよね。何百年も前から狙ってるなら、自分に恋人が出来るたびにルカに奪われちゃってその復讐をしたい、とか、いくらでもあると思うんだけどね。とにかくハンター達の動機はもっと欲望に塗れているほうが良かったと思う。あとついでだから言うけど、ルカに勝つには友情が必要だって話だったんだけど、それも薄いんだよなあ。ダンス大会で「最終ベルが鳴る」を使ってたんだけど、これに掛けて、ダンス大会をステップアップに大学進学が掛かっている子がいるとか、オーディションがかかってるとか、これで優勝できなかったらダンス部廃部とか、そういう安っぽくても何かしらダンス大会に掛ける特別な何かがないと、歌子がバイトする意味もマリアが友情を取るにも少し弱い気がする。それとマリアが普通の暮らしを捨てられないって葛藤するシーンがある。あれって私はマリアも永遠の命を授かったらその姿が誰からも見れなくなってしまうからなんだと思ってた。たしかに永遠の命を授かることだって普通の暮らしをやがては捨てることになるのかもしれないけど、これもちょっと弱いというか判りにくいと思う。最後のダンス大会はいきなり始まったんだけど、その前とか後に、伊佐子の独白とかって形でもいいから、マリアが消えた、でもマリアのポジションは開けてダンス大会に出ることにした、とか。んで、マリアがそこに皆からは姿が見えないんだけど参加してたりしたらいいと思うんだけど、こんなベタなのが好きなのは私だけですか。ええそうですね。ということで、かなり色々と不満というか、もっとこうだったら私は楽しかったんだけどなあという自己満足感想をぶちまけましたけど、本当に観に行ってよかったと思う。次が楽しみ。もっとよくなってると信じて疑ってないから。
初日、本当におつかれさまでした。