歌声。連れてどこまでも

先日行われた日本工業大学でのフリーライブに参加したときから決めていた。必ずミニアルバムは買おうと。そしてNHKホールコンサートで買ったこの『卒業』。とても素晴らしかったので勝手にレビューというか感想お花畑しようと思います。

■M01 ガンバレ! 作詞:秋元康

最小限に抑えたストリングスの響きが、ゆっくりとあの日の記憶を呼び起こす。私は星野さんの直接的な「卒業」を知らない。DVDの中に在る彼女の歌声と、彼女を見守ったステージのメンバー、客席の観客たちの姿だけを知っている。スポットライトを浴びた彼女は、文字通り浮かび上がるようで、どこか知らない、違う世界に飛び立とうとその翼を震わせているように見えた。星野みちるさんがAKB48を卒業という形で、ひとり飛び立つ前に、さよならの代わりに歌ったのがこの「ガンバレ!」だ。
あれから何度も月は巡って、星は何度も空に輝いた。先日、日本工業大学で行われた無料ライブに行ってきた。すべてのバックメンバーが捌け、ステージには星野みちるさんだけが残った。キーボードの椅子を引く。それだけで、わかった。私がわかったくらいだから、きっと会場にいた彼女のファンは誰しもわかっただろう。そして、歌ってくれたのがこの曲だった。痺れた。そのときにも思ったけれど、こうしてCDのクリアな音響で聞いてみればそれがより一層際立つ気がする。
彼女が卒業したときの「ガンバレ!」はファンや同じAKBのメンバーに向けて歌われていたのと同時に、なにより、これから先の見えない闇に踏み出す自分への激励だったのだと思う。卒業は誰にでもある。それがどんな形のものかはわからないけれど。そして卒業は人を強くするものだと思う。それがまさに彼女の歌声によって証明されている、そんな気がする。涙が笑顔になるような、大人になった星野みちるがここに居て、月の影でひっそりと人々を照らしている。ふと見上げた空にたくさんの星。思い思いに結んで、帰る道。いつもは寂しくて寒い夜道がほっこり暖かくなるような、そんな素敵な曲です。

■M02 サヨナラのサイン 作詞:高橋みなみ

自然と溢れた涙を乾かす風が運んできた新しい季節。外は眩しくて、空はまだちょっと滲むけれど、でも、こんなに青くて気持ちいい。近くにいた人が別の道を選んでいたことに気がつかずにやってきた別れのその中で、今はまだ悲しみを少しだけ引きずりながら、でも、新しい何かの息吹を感じるような躍動感に満ち溢れた曲。幼いだけだった二人の関係からの「卒業」。ちゃんと前を見て歩いていけるよ。今はまだ涙が流れても。頬を流れるのは涙だけじゃなくて、こんなにも気持ちのいい風。
一面の空と一面の海を臨むような、そんな開放感あふれたナンバー。これ悲しいことあったときに、景色のいい坂道下りながら自転車かっとばしながら聴きたいな。二行目で既にたかみなが息をしているんだけど、そこにも注目だよ。

■M03 DEAR M 作詞:大島麻衣

この「M」はみちるのMなのか、麻衣のMなのか。もちろん前者が正しいことはわかっているけれど、正しいかどうかはこの際どうでもいいじゃない。前曲の明るさからは一変、しっとりとした優しいピアノの音色がメロディをひとつずつ大切に運んでいきます。語りかけるように、語りかけに答えるように、丁寧に丁寧に歌われる言葉の一つ一つ。この言葉は一体どちらのものか分からなくなってくるような、ただそこにあるのは相手を大切に思う気持ちだけで、胸が一杯になる。サビのメロディを追いかける細いピアノの音が好き。後半からは少し力強さが増す。頷くように、励ますように。これ聴いて思うのは本当に大切なんだなあということ。何がかっていうのは聞いた人によるかもしれないからっていうか、言葉にすると無粋な気がするから言わないんだけど、こういうこと書いて贈ってくれる誰かが居るって本当素敵だなと心から思わせてくれるような、そんな曲。個人的に雨の日に聴きたいな。

■M04 泣きたくなる 作詞:星野みちる

この曲だけ「卒業」というよりも「別れ」という色が強いこともあってか、このアルバムにあって少しだけ浮いてるような感じがします。卒業は次のステップが見えているものだと思うんですが、この曲は前の恋からまだ卒業できずに一人で心を痛めてセンチメンタルに浸っている感じでしょうか。雨に閉じ込められた車中のような、眠りから醒めたとき朝か夜か分からないときのような、本当に目が覚めているのか、まだ夢の中なのか分からないときのような、そんな不思議な感覚のする曲です。

■M05 信じたい 作詞:前田敦子

抑え目の出だしが逆にその先で弾けて突き抜けていくメロディを勝手に予感させて、最初からワクワクさせてくれる。Blue Waterという曲があるのだけれど、それを子供のころに聞いたあのドキドキ感を思い出させてくれる感じ。地球を守って戦ってくれてる子たちのアニメのオープニングに使われそうな感じでもあって、夢や希望や挫折や涙や汗なんていうストレートでストレートすぎて恥ずかしくなっちゃうようなものが詰まってる、きらきらとした青春ソング。ちょっと固かったりどこかで訊いたことあるようなフレーズが繰り返されるのも、その年代のちょっとカッコつけようとする感がよく出ていてそれがとても懐かしくてこそばゆい。自分では照れくさくて言えないその気持ちを、星野さんが代わりに、その恥ずかしがってる気持ちごと丸ごと歌い上げてくれる。たとえば街は曇りでも、その厚い雲を突き抜ければ、そこには青空が。突き抜けた先の穴から陽が広がって、いつの間にか雲はどこかへ消えていく。何度も繰り返される、タイトルにもなっている「信じたい」。何もない不安だらけのところからやってきた彼女たちは、まさにそんな状況だったのかなと思ったり。とにかく元気になりたいときに聞きたい曲。

■M06 夢の足跡 作詞:浦野一美

星野さんの声の伸びをもっとも感じられる素敵な曲。私はこの曲が一番すき。特にサビ。突き抜けて突き抜けて、どこまでもどこまでも伸びていく。夢へと続く道。今回作詞に参加している人は本当にその曲の中でそこかしこに呼吸をしているんだけど、この曲のCinDyらしさって本当凄いと思う。一つ一つ落ちる涙が夢の足跡をつくっていく。そう信じて欲しいし、そう信じてきた。誰よりもCinDyだからこそ説得力があって、夢に向かって一足先に卒業を経た星野さんがその言の葉を歌い上げる。陽の中に置かれたコップが掻いた汗の、一つ一つがキラキラと陽を反射して光るように、その中に陽を含めて輝くように、涙も夢も。未来は輝いている。その言葉はチームBの野口さん、松岡さんが卒業するときにCinDyが贈った言葉だ。夢を含めた未来はとても輝いている。夢の足音を刻むように、Clap your hands, とにかく聴け!

■M07 勇敢な僕ら 作詞:折井あゆみ星野みちる

大島麻衣さんの卒業のときに披露された曲。二人でこそこそバレないように作ったんだよ、といったその顔はとても優しくて輝いていた。卒業を経た二人が、これから卒業する人へ贈る歌。卒業生、星野みちるに捧げられてきた曲たちの終わりに待っていたのは、星野さん自身がまいまいに捧げる歌だった。折井さんとのハーモニーは懐かしく安心があって、それだけで温かい気持ちになれる。なんだろう、地元に帰ってきた、みたいなそんな気持ち。AKBに今いる人たちとは違った目線での愛というか、AKBへの愛が溢れてるなあと卒業生を見るたびに思う。この二人は何かあるたびにAKBの元に駆けつけてくれるしその思いは余計強いのかななんて思う。追いかけていくメロディと静かなピアノの音。ブレスの音さえもハモって聞こえるような二人だけの静かな空間は、表には出ないけれど静かな強さに満ちていて、過去とそして未来を歌う。卒業というものを経て強くなったその腕をいま旅立とうと震える体に優しく伸ばす。僕らのこの夢がハッピーエンドでありますように。なによりも自分たちで願うその気持ちが、きっと夢をハッピーエンドに近付けるよ。

総括的な

とにかくこのボリュームと内容で1500円はありえない。買うべきだよ。それぞれが星野さんに贈った言葉、卒業を思った言葉、今自分が信じている言葉、それらをきちんと込めているから本当に響く。星野さんのことがみんな好きなんだなというのが伝わるし、星野さんが自分のために書かれたものだということを十二分に理解して、本当に本当に大切に歌い上げているその姿だけでも本当に感動できるし素晴らしいです。星野さんのクリアでひっかかりのない声が伸びていく。日工大で見た彼女の姿は、現役時代を知らない私にですら、変わってないなあと思わせてくれるもので、バックバンドを引き連れて歌う彼女は本当に素敵だった。歌を届けるために生まれた人なのだと思った。何かを誰かに届けるために生きている人なのだと思った。ミニアルバムのもう一つの見所として、星野さんの書いた絵がブックレットに使われている。地の中に埋まったハートが、やがて芽吹いて、そして花を咲かせる。であった二人は最後にその花を挟んで再会する。花じゃなく、その根がハートの形で赤く色づく。大切なのはきっとそっちなんだね。そこにも星野さんらしさというか何を彼女が伝えようとしているのかが分かるような気がする。本当にいいアルバムだと思います。興味があるなら是非聴いてみたらいいよ。